「Story」vol.8 藤本圭一郎

宇宙航空研究開発機構(JAXA) 研究開発部門 第三研究ユニット
東京大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻 博士課程卒 2001年度奨学生(OB)

楽しいと思うことは、誰になんと言われようがやり続けて欲しい。

「なにかを作りたいという思いをいつも持っていた子供でした」
宇宙航空研究開発機構(JAXA)で次世代大型ロケット「H3」や宇宙船の開発に携わっている藤本圭一郎(ふじもと・けいいちろう)は、少年時代をそう振り返る。
 
 「家にある割り箸や輪ゴムで鉄砲を作ったり、たくさんのロケット花火を同時に打上げる仕組みも成功させましたね。庭に秘密基地を築き上げて空想の敵と戦い、果ては冒険と称して自作のイカダで海に漕ぎ出したら日本海流に乗って外洋に流されそうになったり...。とにかく、いろんなものに自分なりの工夫を加えて新しい何かを作り出したい気持ちは強かったですね。」
好奇心旺盛な少年は「ものを作り上げる楽しさ」を体感しながら、その過程で独創性や発想力を養っていった。
「まず模倣から入りそこから高めていく。基本は昔と同じなのかもしれません。」
その姿勢は宇宙開発エンジニアとなった今も変わらない。
「目標を達成してしまうと物足りなくなるので、より難しいゴールの設定と挑戦とを繰り返していました。」
完成したもので遊ぶのが楽しいのではなく、いいものを作り上げていく過程が楽しいのだ。
 
 学校の勉強も楽しかったが、心中では複雑な思いも抱えていたという。
「親から勉強するように叱られた記憶はありません。ただ考えるのが好きで、周囲のものに対して理屈っぽく、常に思い巡らせていました。学校の勉強に対しては何のために学んでいるんだろうというモヤモヤがいつもつきまとっていたのですが、教えてくれる人は誰もいませんでした。コツコツと積み重ねて成績が上がることが嬉しかった。が、あの頃は人より高い成績をとりたいだけだったのかもしれません。」
やがてものづくりの楽しさを通して自分自身へと課してきたミッションが、学ぶという行為への動機を導きだす。
「目的は自分で決めてもいい。これをしたい、これができたらいいなという目標が定まると、まずやる気がでる。楽しいと思うことは、誰になんと言われようがやり続けて欲しい。小さい頃から好きなことを突き詰めていくことで、これを学べばこういうものづくりに繋がるというのが明確にわかったので、勉強が苦ではなく楽しかった。」
楽しい目標へと至る道程は楽しいに決まっている。

面白いことを始めて、多くの人を巻き込んでいく

 長崎県は五島列島の福江島で生まれた藤本は、満天に輝く星空を眺めて少年時代を過ごす。しかし意外なことに「その頃から宇宙が好きだった訳ではないんですよ。」と苦笑してみせた。航空宇宙工学の研究者と聞けば生粋の理数系というイメージを抱きがちだが、「算数・数学よりも図工・美術が好きでした」と、クラフト好きな少年が顔をのぞかせる。

 「体育は苦手でした」と語るも五島高校時代の部活動はサッカー部。
「サッカーは好きで一生懸命にやったんですけど、レギュラーにはなれませんでした。」
それでも練習後であろうと毎日ボールを蹴り続け全力は尽くしたので、悔いは残っていないと語る。

 その一方、課外活動にも精を出し、体育祭の応援団リーダーとして現在につながる貴重な成功体験を得ることとなる。

「この時に初めて皆を率いる役割を担ったのですが、参加するメンバーの長所を活かしたものにしたかった。男性の力強さと女性の美しさ、ものづくりが得意な人や音楽が得意な人、そして長崎らしさを考えて辿り着いたのが、長崎くんちで有名な龍踊(じゃおどり)でした。皆が共鳴できるような楽しくて難しいことに挑戦すると、集団の気持ちが一つになるんですね。面白いことを始めて、それに多くの人を巻き込んでいくと良い方向にことが進んでいきます。」

ひとつのことを達成する喜びを感じて欲しい

 「名古屋大学進学と共に故郷を離れたのですが、入学当初は孤立していて、その状況をどうにかしたいと思い学園祭の委員に飛び込みました。当時はネガティブ思考が強く、初対面が苦手で上手く話せませんでした。本当は新しいコミュニティに入ることも怖かった。」
「でも、そこで同じような境遇の様々な地方出身の仲間と出会い、すくわれました。工学部だけでなく、医学部なんかの人もいて、自分とは違うけど共感できる考え方にたくさん出逢い、刺激も受けました。このときだけでなく、人との繋がりはとても大切で、いつも助けられています。」
互いにアイデアを出し合いプロジェクトを形作っていった。意見の相違から大喧嘩することもあったが、メンバー達の熱い想いを乗せた企画は、学園祭の訪問者に笑顔を与えたという。
「成功に終わった後は、仲間と抱き合って、ときには涙しながら喜びを爆発させました。」
こうして心に刻まれた喜びと感動が、今でも藤本を動かす原動力となっている。
「 “みんなが感動できる楽しくて難しいことに、共鳴できる仲間と挑戦する” これが幼少期や学生時代、そしてJAXAで共通して感じた大切にしていることです。今、大学の先生方や学生と有人宇宙船や有人ロケットの研究をしています。いつになるかわかりませんが、日本独自の有人ロケットを実現させることができたら、みんなで抱き合いながら涙を流して喜びあいたいですね。そんな感動できるストーリーが日本中で生まれて欲しいです。」
 
 藤本は研究者であり、人と共鳴しあい何かを教えることが好きな人間だ。
「楽しくて難しい研究テーマをたてて、たくさん仲間を増やしながら一歩ずつでも前に進めていくことが、とても楽しいです。自分もこういう先生に出会いたかったと思えるような指導を続けていって、学生に学ぶことの楽しさを伝えていきたいと思っています。」

今、ないものを作りたい

 夢中になれるものづくりと学ぶという道を探し続けて、辿りついたのが航空宇宙工学であり、JAXAだった。
「はじめは宇宙開発という仕事があることさえ知りませんでしたし、高校のクラスメートから偶然聞いた”航空宇宙”という言葉のカッコよさに惹かれ名古屋大学に進みました。大学での特別授業で、後の恩師となる藤井孝藏先生が見せてくれた数値シミュレーションという世界に惹かれ東京大学大学院へ。宇宙科学研究所で研究をした結果、学んだことをロケットなどの新しい設計につなげることができる技術に出逢うことができたんです。そこでようやく、ものづくりと学びがひとつにつながり、しかもいつまでも難しいことへの挑戦を続けることができる宇宙開発という仕事に辿り着くことができました。」
 
 今はJAXAの新しいロケットであるH3や、国際宇宙ステーションから試験サンプルを持ち帰る再突入カプセルの信頼性や安全性を高めるための設計を探し出す仕事をしている。
「数値シミュレーションを使えば、実際にものを作って実験しなくても、いい設計かどうかをコンピュータ内で調べることができます。ロケットや宇宙機が、未知な部分が未だに多い宇宙という過酷な環境であっても、確実にミッションを達成できることを、地球にいながら証明しなくてはなりません。それができるのは数値シミュレーションだけなんです。」
数値シミュレーションをつかって、どんどん新しいものを生み出して行きたいという。なんだか難しい話になりそうだが、
「今は技術的に難しいあらゆる物理現象を調べることができる数値シミュレーション手法の研究、新しいHTV(宇宙ステーション補給機)の後継機、再使用型ロケット、そして有人ロケットの開発に挑戦していきます。」とわかりやすく具体例を示してくれた。

「ロケットや宇宙船の形を自分で決めたいんです。」
力を込めて今の目標を口にする。
「小さいときからそうでしたが、自分で形を考えるのが大好きなんです。JAXAでも形を決める仕事ってなかなかできないので、今はとても幸せです。」
少年のように目を輝かせ仕事の魅力を熱っぽく語った。

楽しくて難しいものづくりに挑戦してほしい

 最近は講演などで小さな子供と接する機会も多く、もっと子供達がものづくりへ興味を持つ機会をつくって行きたいとの強い思いを抱いているという。
「”あんなこといいな、できたらいいな”という気持ちをずっと持ち続けてほしいですね。最近はロボットやドローンが身近になり、数値シミュレーションの携帯アプリも出ています。子供にこうした手段の使い方を教えることと、熱中できるような楽しいテーマを学校や塾で与えることで考える力が伸びていきます。ものづくりや学びに対する楽しさが生まれて自発的な学習意欲も大きく向上するのだと思います。子どもの柔軟な頭でものづくりに挑戦すれば、大人よりも面白いものを作れる可能性を秘めています。」

 これからの将来を担う子供達には、なるべく早く好きなものを見つけて欲しいと願っている。
「楽しいことが見つかったら、誰に何と言われようが突き進んでもらいたい。自分で見つけることができなくてもいいんです。私も周りの仲間に教えてもらったんですから。楽しいことを仕事にできるのは簡単ではありませんが、共感できる仲間と熱く語らいながら努力をし続けてほしいです。挑戦していたことが例え実現できなくても、そこで出会った仲間、知識や経験は大きな力になります。」

 ものづくりの分野を目指す学生には、こんな熱いエールを送ってくれた。
「ものづくりに関していえば世界的にも伸び悩みの時期に来ています。ですが、子どもの頃に抱いていた夢を形にする挑戦をはじめれば、その想いに共鳴する仲間が自然と集まってくるはずです。似たような思いを持つ仲間と会話すると萎えていた気持ちも復活します。研究テーマも与えられたものを選ぶのではなく、自分にとって何が楽しいかを考えて、自ら先生に提案していってもらいたい。長期目線でのなりたい自分があればあるほど、小さなことに悩まなくなりますしタフになれます。思いを捨てずに研鑽していけば、チャンスが来たときに手を挙げられるはずです。」
「誰もが簡単に行ける宇宙旅行を実現したいと、私も頑張っています!こういうチャレンジをたくさん増やして日本を盛り上げていきましょう!」

そのときの自分の気持ちに素直に従って道を選ぶ

 島で秘密基地を作っていた少年は、大人になってロケットを開発している。その背景には好きなことを突き詰める態度と、小さなきっかけを逃さない真摯な姿勢があった。
「僕が育った島は種子島とは違って宇宙とはかけ離れた場所でした。そういうところで育った僕がJAXAで働けているのは、小さなきっかけの積み重ねです。ちょっとカッコいいなから始まり、これがこういう方向に行けばもっと楽しくなるかもというアンテナを張ってやってきたので、ちょっとしたきっかけを逃さずに、そのときの自分の気持ちに素直に従って道を選ぶのがすごく大切だと思います。あとは、たくさんの仲間をつくり、難しい夢であっても声に出して語り合うことや切磋琢磨することも、夢の実現につながる大きな力になると思います。」
 
 子供の頃からものづくりに傾倒してきた藤本は、新しい宇宙船やロケットをつくるという星を見つけた。今、心に抱く夢の先には果てしない宇宙への旅がある。かけがえのない好きという気持ちときっかけを大切にすれば、想像もしていなかったような新たな世界に通じる扉はあらわれるだろう。その第一歩は、まず自分が何を好きなのかを知り、「夢=目標」を設定することから始まる。

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